感想:改めて「共謀罪」法案を問う

 さて、与党側が「テロ対策だ」と主張する「共謀罪」法案がそろそろ衆議院で採決されるのではないかという観測が流れている。

  世論調査を見ていると、「共謀罪」法案とたずねると賛成がやや先行するも賛否の差はそんなにないようだ。逆に「テロなど準備」という文言を入れると、賛成が圧倒的多数になる。

 「テロ対策」と分類するのであれば、各論(個別の話)はともかく一般論として不要と論ずる人はあんまりいないと思う。だから、今回の法案が「テロ対策」として有効なのか、あるいは見過ごせないデメリットが本当にないのかをまさに問わなければいけない。

 そこで、政府は「テロ対策」だと主張している。ただし、テロに対してなんら処罰するルールがないというわけではない。殺戮を働けば、殺人罪だろう。毒ガスを入手すれば、それに対しては所持に対して罰則が用意されている。いつかのサリン事件は、この法案がなくても対処することが可能である。今そんなことが計画されていれば、サリンを所持した時点で直ちに検挙される。一定の場合は泳がせやおとり捜査も可能だ。

 コラムなどでは「何かがおきてからでは遅いのだ」という。しかし、実際に事件を起こして検挙されれば重たい刑罰が待っている。刑罰にはそういった事情から抑止効果が認められる。実際に起こそうという輩は、それをしてもなお「やろう」というのである。罰をいくら整えたとしても、それが掻い潜られないという保証は成り立つのだろうか。

 仮に、掻い潜られるリスクが減るとしよう。すると今度は、この法律で何をしようとしているのかが問われる。その要諦は、傷害ならその犯罪行為が発生する前に実行しようとしている「相談行為」のやり取りをを処罰しようというものである。その限りでは、「共謀罪」という呼び名が明後日の方向を向いているとまで断言できるだろうか。

 しかし、相談行為を立証することは大変だ。そうすると、メモ等の物証が出なければ、手段が会話を聞く・メールやSNSのやりとりを閲覧するあたりになるのではないか。または、ちょとした日常的な行為を捉えることにならないのか。

 もちろん、やましいことがなければ大丈夫だという話の展開もあり得ると思う。とはいえ、自分にはなくても他人にはそう見えるということはあり得る。判断するのは当局である。あるいは、当局が動くことを悪用する人が現れないとは限らない。

 そもそも、犯罪に加えるということは、その犯罪をやったかやっていないか、本当はやっていなくても疑われる人は出る。しかし、政府の答弁は不安定だ。区別できるというようなことを主張しているようだけど、どういった行為が「共謀」にあたるのか、答弁の一部を聞いていると、日常生活と本当に区別できるのだろうかと思ってしまう。

 仮に、サリンなどの化学兵器や毒ガスになり得る物自体が規制されていないのでそれを規制するというのなら、この国会で成立させる意義はあるだろう。ただ、それでもテロ対策は目的であって取り締まる中身は「○○所持取締法」であろう。しかし、そうした「もの」は既に大量の規制があるはずであろう。また、「共謀罪」は既に尊者している犯罪から指定されるから、仮に元々規定がないのならそもそも「共謀罪」の対象にすることも出来ない。サリンについて「共謀罪」を適用したければ、サリンを規制する法律がまず必要だ。

 名前を持ち出すことは注意が必要だということは既に触れたことである。今回の法案の中身は、一定の行為を取り締まることである。それがテロ対策になるのかどうかはまさにこの法案を通すべきかの判断基準になるという関係だと思う。だとすれば、やや長くなってしまうが、「政府がテロ対策として主張している『共謀罪』法案」といったところになるだろう。短くするなら「共謀罪」法案として、後の説明書きで「テロ対策と主張がされている」とするくらいだろう。

 罰則を設けることの限界や既存の制度そして不安定な答弁を見ていると、来週にも参議院へ送るとか6月までに成立させるとかそういった「急ぎ」に馴染むのだろうか。音楽でも、テンポが速いだけで速く聞えるわけではない。実は聞かせるベストな方法は緩急をつけることだ。そうすることで、速いところがもっと速く聞える。今は緩めるときな気がする。

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