「合区禁止を改憲に」は適切か?

選挙制度を改憲の焦点にする…そんなニュースがあった。


そもそも合区とは、いつも通り取り上げる選挙ネタである。


参議院では、比例代表と都道府県からの選挙区選出の2つの方式から選ばれた議員が集っている。比例代表の制度については各自ご確認を。また触れるとは思うけど。


今回のネタは後者の「都道府県単位で選挙区にして議員を選出する方式」である。

2013年までの参議院選挙では、各都道府県に最低1議席が割り振られていた。しかし、2016年では「1票の格差」を是正するために、徳島と高知そして鳥取と島根は、1つの選挙区に統合された。「徳島・高知」そして「鳥取・島根」だ。このような統合について「合区を設けた」といっていたのである。


これに対して、各地域の意見を吸い上げられなくなるので、やっぱり都道府県で1議席は確保すべきだという声はある。


☆憲法問題にすべき?

どうやら、この合区を禁止する規定を改憲のネタにしたいという勢力がいるようだ。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170726/k10011075421000.html

NHKの記事だが、どうやら大まじめに検討されているらしい。

該当部分を引用すると、

「参議院の作業チームが、「合区」の対象となった4つの県では不平等感が高まっているとして、「選挙区などは法律で定める」としている憲法47条を改正して、都道府県から少なくとも1人は、参議院議員が選出されるよう規定すべきだなどとする提言を取りまとめた」



個人的には、都道府県で1議席以上と「1票の格差」を是正することが必ずしも矛盾するとは思わない。これは後でシミュレーションした結果を示すことにしたい。

そもそも、どういう選挙区の区割りがいいかというのは非常に難しい問題である。もちろん地域の声を吸い上げるというのも1つのかんがえるべき事情ではある。しかし、これに限られるわけではない。1票は平等であるべきだという主張もあるし(これを完全無視するわけにはもちろんいかない)、他の理由を持ち出して来る人もいるだろう。


すると、合区禁止を大まじめに検討している人たちは容易には答えの出ない問題を、「これが答えだ」と最初から決め打ちしてそれを憲法にまで書き込もうとしていることになる。時代や環境によってはかえって弊害が出る可能性もあるにも拘らずである。

つまり、様々な事情を柔軟にかんがえながら設定すればよい。以前は都道府県最低1議席というのはほぼ固定されていたのである。それは現行憲法のもとである。だから、現行憲法が合区をやめることを憲法違反とするはずはなく、「合区禁止」を憲法に書かないと合区を防げないなんてことはあり得ない話である。


そういう意味では、この問題を持ち出して「改憲しよう」というのは「改憲のための改憲で、改憲のダシにしている」といわざるを得ない。


※憲法9条なんかを変えたいと議論したり、案を作ってみたりということを否定していない(もちろん変えるべきかという賛否とは切り離している)。別にそれはダシでも何でも無い。本来、さらに軍拡をしたり、正式な国防軍にしてみたり、いろんな兵器を充実させようとするのであれば改憲は避けて通れないからである(本当は集団的自衛権の段階で取り組む問題だったと思う)。


☆合区なしで1票の格差は?

一応僕持っている答えは、都道府県に最低1議席というルールを維持しても、ある程度は1票の格差を是正することが可能だというものである。


まず、都道府県とその人口を並べてみる。

2015年だと、東京都が最高で1351万人で最低が鳥取の57万人だ。

両者では24倍の開きがある。


これに基づいて、鳥取県を1議席として、鳥取県の1.5倍以上の人口で2議席→2.5倍以上で3議席…というように各都道府県に議席数を割り振ってみた。その合計が以下のとおりだ。

合計:218議席

最大格差:1.74倍


参議院は3年毎の半数改選である。つまり、一通り入れ替わるには6年かかり、もう1回選挙が必要だ。そうすると、議席数は2倍にあたる436になる。

現行制度では3倍程度の格差があるので、かなりの改善が見込めることが分かるだろう。


※議員を減らす方法

これだと「議員が増える」という指摘があるかも知れない。


その1・最大格差以内に収まるよう調整

そこで、最大格差が1.74倍に収まるように、主に東京・大阪・愛知などの選挙区で定数を削ってみた。

合計:176議席

意外に削ることが出来た。半数改選が176なので、最終的には352議席になる。


その2・参議院の比例代表をやめる

比例代表のおもしろいところは、少数会派が議席を得ることである。ただ、以上のように都道府県ごとに議席を割り振った場合の定数・定員は、

東京17 神奈川・大阪11 愛知・埼玉9

というように、今回の試算ではかなり大きな選挙区がいくつもできあがっている。実は、本当に1人区になるのは鳥取・島根・徳島・高知など7つのみで、後は最低2議席以上割り振りがある。


このようにかんがえれば、比例代表のメリットも十分吸収できているものとして、比例代表をやめてしまうのもひとつの考え方である(ただし1票の格差の関係でこれ以上議席数を減らさないことを前提とする)。


その3・衆議院の定数を削減する

これでも参議院は現行の242より多い352だ。

後は衆議院に手を付けるしかない。

同じように、小選挙区(※解説はまたいずれ)の数を鳥取・島根・徳島・高知などを1として人口に比例して割り振ってみる。

合計:218

最大格差:1.74

※とはいえ、小選挙区は都道府県内でさらに割り振らないといけないので、本当はもっと複雑な作業を要する。

なんと、小選挙区を現行の295から80近く減らすことが出来た。比例代表も併せて減らすと、参議院の上昇分を吸収できそうだ。


※議員ってそもそも減らすべき?

というのは、荷が重い問題なので、ひとまず衆参の国会議員が現行水準となるように、上記のような案を書いてみたまでである。

個人的には、議員歳費の問題と議員の定数問題は分けてかんがえるべきだと思う。それでも、議員歳費についてはルールは厳しくすべきだが、無報酬などでは「なり手」が将来的にはいなくなるかもしれない。一概に削減すればすっきり解決と行くのだろうか?

また、定数の問題は有権者1人当たりの議員数が適切かどうかをまず問うべきだ。有権者あたりの議員数が少なければそれだけ民意の反映は難しくなる。だとすれば、議員の絶対数が多いように見えても、それだけで大幅削減を正当化できるだろうか?

逆に、財政負担などから正当化する立場があるのは承知している。それだけ難しい問題になっているので、あえて現行水準をいじらないということで試算した。


☆おわりに…


いろいろ書いたが、何が言いたいのかもう一度まとめておく。

簡単に言えば「合区解消(+1票の格差の是正)」は「政治家の努力でなんとでもなる課題で、実際には素人でも対案を考えつくのだから、政治家に何も出来ないわけがない(改憲しないと出来ないとのたまう政治家は怠慢)」というものである。

改憲のダシにするのではなく、真面目に改善する方法を検討してもらいたい。素人でも「対案」くらい出せるわけだから。


繰り返しいっておくが、管理者は「合区を改憲の争点にする」ことに限って「それは必要ない」という立場を表明したに過ぎない。他の条項や論点について一律に判断したものではないので、念のため強調しておきたい。

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